カナコラム  (更新 月曜:かなこ、木曜:endy )

誰にでも起こりうる事 by endy

2005/01/27

●ケータイが鳴る

その日の演奏も終わって控室に戻り、バンドのメンバーと一緒に夕食でも食べに行こうかと思っていた矢先だった。
忘れ物をした私は控室に戻った。
忘れ物をとり部屋を出ようとしたとき、上着のポケットに入れたままになっていたケータイが鳴った。
「ピピピ、ピピピ・・・」
派手なケータイの着信音が苦手で、わかればいい程度のシンプルなその着信音は、おそらくその状況でなければ聞こえなかったかもしれない。

画面に表示された送信者を見ると、ウチの実家になっている。
どうしたんだろう?こんな時間に・・・。
ケータイに出てみると、年配の男の人の声。
しかもなまっている。
「もしもし、隣の○○だけど・・・。」
ウチの実家は母の一人暮らし。
隣には母の弟夫婦が住んでいる。
その叔父がウチの実家から私にかけてきたということらしい。
おじさんが次に発した言葉で、演奏後の浮かれた気分がふっとんだ。

●母、倒れる

「お母さん、倒れたんだよ。」
話を聞くと、朝具合が悪くなって倒れた母は起き上がることができず、電話機までたどり着くことすら出来なかったらしい。
そのまま夜になり、やっとの思いで手にした電話で、覚えている電話番号である隣のおじさんへ電話をかけたということだった。
「今すぐ来れるか?」
おじさんのその問いに、楽器の後片付けもまだ残っているし・・・という思いが先に立ち、「今すぐは無理だけど、終わり次第すぐ行くから」と返事をしてしまった。
何故この時、「わかった、すぐ行く」と言わなかったのか自分でも不思議である。
メンバーに状況を話すと、「後片付けはこっちでなんとかするから、すぐに行ったほうがいい」と言ってくれ、私は車で実家に向かった。

実家に到着してすぐに救急車を呼ぶ。
夜遅かったこともあり、その日は何もできずそのまま入院。
幸いめまいはあるものの意識はしっかりしていたので、病院に母を預け帰宅した。
翌日の検査の結果、脳には全く異常がなく別な要因が考えられるが、通院で治療可能とのこと。
ひとまず安心だった。
一週間程度入院して、めまいがおさまったら退院しましょうということになった。

●幕が上がる寸前に

今回は大事には至らず、ホッと胸を撫で下ろすことが出来たが、こんなことって今回だけじゃなくていつ起こってもおかしくないんだなと思ってしまった。
私の年齢だから、母が一人暮らしだから、ということでそういう心配も多いのかもしれないが、本来誰に起こってもどんな状況で起きてもおかしくないことなのだ。

私は考えてしまった。
もしこれが自分たちが主催するコンサートで、たくさんの友人たちに手伝ってもらい、そしてたくさんのお客さんに足を運んでもらったコンサートの幕が上がる寸前にその電話が鳴ったら、私はどうするだろう?
これはコンサートに限った話ではない。
自分がいなければ成立しない大事な場面というものは、誰にでも起こりうることだから。
考えることはないはずなのだ。
たった一人しかいない身内がもしかして・・・、という状況なのだ。
とるものもとりあえずすっ飛んで行ってもおかしくないのだ。
でも果たしてそれが出来るだろうか?

●親の死に目

多くの芸人、アーティスト達が行うイベントでもそういったことってあるんだろう。
「芸人はね、親の死に目にも会えないと覚悟しないと。」
そんなことを他人事のように聞いていた。
私は芸人なんだろうか?
もし母のもとへ走らず、演奏することにしたとして、私はその後も悔いを残さず演奏活動を続け、生涯音楽を楽しむことが出来るんだろうか?
私のようなプロではないものでも、そんなことを考えてしまった。

もし皆さんがどこかで、楽しみにしていたコンサート当日、それも幕が上がる直前に出演者の事情で中止という事態に遭遇したら、ひょっとしてそんな事情があるかもしれないということを、ちょっと思い出していただければと思う。
母は明日退院する。
もちろん私は会社を休む。

気ままに筝ライブ vol.2 のリポートをアップしました。

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