カナコラム  (更新 月曜:かなこ、木曜:endy )

歯医者さんは好きですか? by endy

2005/07/14

ども、若手育成に思いをはせるendyです。

●少年の心が

皆さん、歯医者さんはお好きでしょうか?
あの入り口を入ったとたんに鼻をつく歯医者さん独特の匂い。
待合室で待っていると聞こえる歯を削る音。
診察室の奥で断末魔の叫びをあげる子供。
どうもこういうイメージがあって、歯医者さんを好きではないという方は少なくない。
実は私、歯医者さん好き。
何しろ目に見えない身体の不調が治るということよりも、具体的に歯が治るというのがわかりやすい。
それに加え、歯科衛生士さんが異常に接近してきて、私の中に眠っている少年の心をドキドキさせる甘酸っぱい感覚も嫌いじゃない。

●親知らずと天使

もう7,8年前になるが、親知らずを抜いた。
知人の歯医者さんが「親知らずは役に立たないから抜いたほうがいい」というのだ。
すぐさま抜歯となったのだけど、レントゲンを撮ったところ、1本だけとても抜きにくい歯があるらしく、「もっと設備の整った別の病院を紹介するから抜いてきなさい」と言う。
後日、知人の歯医者さんよりも3倍ほどの大きさの歯医者さんに紹介状を持って行ってみた。
私を案内した歯科衛生士さんは、それはそれはかわいらしかったがそれ以上に声がまた天使のようだった。
「来てよかった」と思った。

●おかしいなー

さて、先生は「全て話は聞いている。安心しなさい。」と言いながら、私を抜歯するための診療室に通す。
傍らには天使の歯科衛生士さんが微笑んでいる。
抜歯が始まった。
話には聞いていたが、かなりのヤツらしく、なかなか抜けない。
最初は涼しい顔で作業をしていた先生が少しずつあせり始めるのが、私でもわかった。
「おかしいなー。」
そうつぶやきながら、私の奥歯をあれこれいじりたおす先生に、私の不安は一層高まる。
しかし天使はまだ微笑んでいる。

●シャイニング

次第に優しい顔をしていた先生は鬼の形相へと変わり、私に「ちょっと待ってて」と一言言い残して姿を消した。
再び表れた先生の左手にはノミ、右手には金槌が握られていた。
「殺される・・・」
私の頭の中では「シャイニング」のジャック・ニコルソンが私の奥歯を叩き割ろうとしていた。
顔は麻酔がかかっているので、奥歯を叩き割る痛みはさほど感じないのだが、金槌がノミの頭を叩く瞬間に、これ以上広がらないというほど私の口が広がるのだ。
その度に私の顎が悲鳴をあげる。
鬼の形相はなかなか静まらず、先生は「おかしい・・・」とつぶやきながら私の奥歯を叩き続ける。
そんな時間が30分も続いたろうか。

●天使の声

「取れたよ。」
そういう先生の手の平には真っ二つに割れた私の親知らずが乗っていた。
私はといえば、その手の平のものがにじむほど涙目で、麻酔が効いていたにもかかわらずズキズキと痛む顎。
先生が診療室を出た後、天使が私の耳元で囁いた。
「よかったですね。相当難しい親知らずだったようですヨ。ウチの先生じゃなかったら抜けませんでした。」
正直、麻酔なんかよりも彼女の声の方が、ずーっと私の痛みを和らげた。
彼女がいなかったら、私は泣いていたに違いない。

後日、なかなか麻酔がひかないのか、親知らずがあったほうの下唇辺りの感覚が戻ってこないことに気がつく。
鬼の先生を尋ねてみたら、どうやら神経が切れてしまっているようだった。
未だに私の左の下唇辺りの感覚は戻らず、お味噌汁を飲んだ時など時々口から漏れてくるのだが、何せ感覚がないのでだだ漏れ状態だ。
そんなことがあっても、今だに歯医者さんは嫌いではない。
でもあの時あの「天使」がいなかったら・・・。

北海道教育大学函館校、国際交流事業「日本文化実習」のリポートをアップしました。

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